桑名の家
商店街の続きを、
家の中までつくる。
土地より先に、街が好きだった
家を建てたい場所の話をうかがったとき、返ってきたのは学区でも駅からの分数でもなく、近くの商店街が好きだ、という話でした。その通りを歩く時間ごと暮らしにしたくて、このエリアの土地を選ばれた。
要望は「明るいリビング」でも「広い収納」でもありませんでした。ほんとうに欲しかったのは商店街を歩いているときの、あの機嫌のよさだと思いました。それなら、家の中でも同じことが起きればいい。
商店街を «近くにある» 家ではなく、商店街が «続いていく» 家にする。
廊下ではなく、通りをつくる
ふつう、玄関からの通路は最短でつなぎます。面積を食うからです。この家では逆にしました。幅を、思いきり取った。アーケードのように天井を木で通し、両側に用のある場所を並べています。
一枚目の写真が、その通りです。左に休むところ、右に靴の棚、突き当たりには中庭の緑。歩いた先に何かあることが、通りの条件だと思っています。行き止まりにはしていません。
二階は、花火の方角から決めた
間取りを引く前に、まず花火が上がる方角を確かめました。年に一度のことです。でも、その一度のために家の向きを決めてもいいと思いました。
つなげたまま、分ける
キッチン、ダイニング、リビング。壁では仕切っていません。分けているのは床の段差と、天井から下ろした垂れ壁です。
開口を狭めるほど、その先は落ち着く。
広げるほど、そこは賑やかになる。
赤みのある木と、石のような面
素材は最初から決めていました。赤みの出る木と、自然物のような肌の石・タイル。この二つだけで組み立てています。
理由は、置く家具のほうにありました。ミッドセンチュリーの照明と、北欧のヴィンテージ家具。何十年か前につくられたものは、白い箱の中に置くと浮いてしまいます。背景のほうに «時間が経っている感じ» がないと、家具だけが古く見える。
通りが、そのまま暮らしになった
住みはじめてから聞いたのは、玄関で過ごす時間が増えたという話でした。靴を選ぶ、荷物を開ける、子どもが自転車を出す。通路だと思っていた場所が、いちばん人の集まる場所になっている。
「商店街の近くに住みたい」という言葉を、そのまま立地の条件として受け取っていたら、ただ駅寄りの土地を探して終わっていたと思います。その言葉の下にあったのは歩いているときの気分のほうでした。家の中に通りを一本引いたのは、それを毎日のものにするためです。
あなたが好きな場所は、
まだ家の外にありませんか。
