自邸

マンションの限界を、
広さで超える。

一続きにつながるLDKの全景

はじまりは、無理だと言われたこと

マンションには、動かせないものがあります。構造の壁、梁の位置、天井の高さ、水まわりの配管。だから「マンションだからここが限界です」と言われる場面が、何度もありました。

でも、限界だと言われているのは間取りの限界であって、広さの感じ方の限界ではない。同じ面積のまま、どこまで広く感じさせられるか——自分の家は、そこから始めました。

目指したのは、部屋数の多い住まいではありません。ヴィラのように、ひと続きで抜けていく場所。そして帰ってくるたび、少しだけ日常から離れられる家です。

見つけた、この家の基準

壁で仕切らない。床の素材と、家具の高さで分ける。
視線が止まる場所をつくらなければ、面積は変わらなくても奥行きは伸びる。

部屋を増やすのではなく、いちばん長い対角線を、家の中に一本通す。

迎える場所から

姿見と木のコンソールを置いた玄関
玄関で最初に触れるのが、この大谷石調のタイルです。白い壁紙にすれば広く見えたはずですが、それはやめました。穴の空いた粗い石肌は、光を当てると陰影が出る。«きれいな面» ではなく «表情のある面»から一日が始まってほしかった。
大谷石調タイルの壁に、ポスターを掛けた廊下
廊下の壁は、飾るための壁だと決めました。ポスターを掛け、季節で入れ替える。天井のラワン合板が反射して、照明を足さなくても壁面が明るくなります。通路を、部屋の一部として使う。これが面積を増やさず広く使う方法のひとつです。
鏡と木の棚のある洗面
洗面も、既製の洗面台を置くのをやめました。木で組んで、鏡を立てかけるように納めています。設備ではなく家具として置くと、その場所が «用を足すところ» から «居ていいところ» に変わる。
奥まで一直線に抜ける廊下
玄関から一直線。突き当たりの窓まで、遮るものを置いていません。マンションでいちばん長く取れる距離がこの一本でした。腰高のカウンターを片側に寄せたのも、この抜けを消さないためです。入った瞬間に奥行きが見えるかどうかで、家の印象は決まってしまう。

台所を、壁から離す

キッチンを壁付けにせず、島のように独立させました。背面には調理台を通し、そのあいだを歩けるようにしています。«行き止まりをつくらない» ——これも広さの感じ方に効きます。

ラワン合板の調理台と、間接照明が陰影をつくる大谷石調タイルの壁
調理台の面材はラワン合板。木口をそのまま見せています。高価な突板や鏡面の扉にすると、たしかにきれいですが «整いすぎる»。背面の大谷石調タイルと、天井のラワン、床のチーク——質感の違う木と石だけで組み立てると決めていました。天井際の間接照明が、タイルの凹凸を拾って陰影をつくります。
本棚を抱えた、モルタル天板のアイランド
アイランドの天板はモルタル。使うほど汚れが染みて、色が濃くなっていきます。新品がいちばんきれいな素材を選ぶと、あとは劣化していくだけです。ここでは逆に、時間が経つほど良くなるものを選びました。
よく使う道具を出したままにしている調理台の手元
道具を全部しまえる収納にはしていません。よく使うものは、出したままのほうが早い。隠すための収納より、置いたままで様になる場所を考えるほうが、結果として片づいて見えます。

ミッドセンチュリーと、北欧のヴィンテージ

家具は、新しいものだけで揃えませんでした。北欧ヴィンテージの椅子、ミッドセンチュリーの照明。すでに何十年か誰かに使われてきたものを、いくつか混ぜています。

新品だけで揃えた部屋は、入居した日がいちばん完成しています。でも古いものが混ざっていると、この家がいつからあるのか分からなくなる。新築のマンションらしさを消したかったので、そうしました。

天井いっぱいから吊ったカーテンが、壁一面の光の面になっている食卓まわり
カーテンは天井いっぱいから吊っています。窓枠に合わせて吊ると、そこで天井が終わって見えてしまう。布を上から下まで通すと、壁一面が «光の面» になる。天井の照明を減らせているのは、この面が明るいからです。
丸テーブルの上に吊り下げたペンダント照明
食卓は丸テーブルにしました。角がないぶん、人数が変わっても座り方が決まらない。上から吊ったペンダントは、部屋を照らすためではなく、ここが座る場所だと知らせるために置いています。
間接照明に照らされたソファまわり
ここには天井照明をつけていません。壁を上から洗うように照らした反射だけです。ソファに沈むと視線が下がるので、その高さから見て眩しくないことだけを考えました。「明るくない」と「暗い」は、違う。帰ってきて肩の力が抜けるのは、明るい部屋ではなく、この暗さのある部屋のほうでした。

ひとつだけ、床を上げた

床を一段上げて畳を敷いた、壁のない一角
ひと続きにすると決めた家で、ここだけ床を上げて畳を敷きました。壁は立てていません。段差だけで «別の場所» になる。腰を下ろせば視線が下がり、さっきまでいたリビングが少し遠くに感じます。用途を決めていない場所を残せるかどうかで、家の余裕は決まると思っています。

住みはじめて分かったのは、広く感じるかどうかは面積ではなかったということです。いちばん奥まで目が届くこと、行き止まりがないこと、床の素材が変わること。効いていたのは、そういうことでした。

「マンションだからここが限界」と言われたら、たいていそれは間取りの限界です。まだやれることは残っています。それを確かめるために、この家を先につくりました。

あなたの家は、
本当にそこが限界でしょうか。

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