CASE 00  自邸

マンションの限界を、
広さで超える。

一続きにつながるLDKの全景

はじまりは、無理だと言われたこと

マンションには、動かせないものがあります。 構造の壁、梁の位置、天井の高さ、水まわりの配管。 だから「マンションだからここが限界です」と言われる場面が、何度もありました。

でも、限界だと言われているのは間取りの限界であって、 広さの感じ方の限界ではない。 同じ面積のまま、どこまで広く感じさせられるか——自分の家は、そこから始めました。

目指したのは、部屋数の多い住まいではありません。 ヴィラのように、ひと続きで抜けていく場所。 そして帰ってくるたび、少しだけ日常から離れられる家です。

見つけた、この家の基準

壁で仕切らない。床の素材と、家具の高さで分ける
視線が止まる場所をつくらなければ、面積は変わらなくても奥行きは伸びる。

部屋を増やすのではなく、いちばん長い対角線を、家の中に一本通す。

迎える場所から

大谷石調タイルの壁が続く玄関
玄関で最初に触れるのが、この大谷石調のタイルです。 白い壁紙にすれば広く見えたはずですが、それはやめました。 穴の空いた粗い石肌は、光を当てると陰影が出る。 «きれいな面» ではなく «表情のある面» から一日が始まってほしかった。
ポスターの並ぶ廊下
廊下の壁は、飾るための壁だと決めました。 ポスターを掛け、季節で入れ替える。天井のラワン合板が反射して、 照明を足さなくても壁面が明るくなります。 通路を、部屋の一部として使う。これが面積を増やさず広く使う方法のひとつです。
鏡と木の棚のある洗面
洗面も、既製の洗面台を置くのをやめました。 木で組んで、鏡を立てかけるように納めています。 設備ではなく家具として置くと、 その場所が «用を足すところ» から «居ていいところ» に変わる。
奥まで一直線に抜ける廊下
玄関から一直線。突き当たりの窓まで、遮るものを置いていません。 マンションで いちばん長く取れる距離 がこの一本でした。 腰高のカウンターを片側に寄せたのも、この抜けを消さないためです。 入った瞬間に奥行きが見えるかどうかで、家の印象は決まってしまう。

台所を、壁から離す

キッチンを壁付けにせず、島のように独立させました。 背面には調理台を通し、そのあいだを歩けるようにしています。 «行き止まりをつくらない» ——これも広さの感じ方に効きます。

大谷石調タイルの壁に沿う調理台
調理台の面材はラワン合板。木口をそのまま見せています。 高価な突板や鏡面の扉にすると、たしかにきれいですが «整いすぎる»。 背面の大谷石調タイルと、天井のラワン、床のチーク—— 質感の違う木と石だけで組み立てると決めていました。 天井際の間接照明が、タイルの凹凸を拾って陰影をつくります。
モルタル天板のアイランド
アイランドの天板はモルタル。使うほど汚れが染みて、色が濃くなっていきます。 新品がいちばんきれいな素材を選ぶと、あとは劣化していくだけです。 ここでは逆に、時間が経つほど良くなるものを選びました。
調理台まわりの手元
道具を全部しまえる収納にはしていません。よく使うものは、出したままのほうが早い。 隠すための収納より、置いたままで様になる場所を考えるほうが、 結果として片づいて見えます。

ミッドセンチュリーと、北欧のヴィンテージ

家具は、新しいものだけで揃えませんでした。 北欧ヴィンテージの椅子、ミッドセンチュリーの照明。 すでに何十年か誰かに使われてきたものを、いくつか混ぜています。

新品だけで揃えた部屋は、入居した日がいちばん完成しています。 でも古いものが混ざっていると、この家がいつからあるのか分からなくなる。 新築のマンションらしさを消したかったので、そうしました。

窓に向かって開けたリビング
カーテンは天井いっぱいから吊っています。窓枠に合わせて吊ると、 そこで天井が終わって見えてしまう。 布を上から下まで通すと、壁一面が «光の面» になる。 天井の照明を減らせているのは、この面が明るいからです。
ペンダント照明の下の丸テーブル
食卓は丸テーブルにしました。角がないぶん、人数が変わっても座り方が決まらない。 上から吊ったペンダントは、部屋を照らすためではなく、 ここが座る場所だと知らせるために置いています。
間接照明に照らされたソファまわり
ここには天井照明をつけていません。壁を上から洗うように照らした反射だけです。 ソファに沈むと視線が下がるので、その高さから見て眩しくないことだけを考えました。 「明るくない」と「暗い」は、違う。 帰ってきて肩の力が抜けるのは、明るい部屋ではなく、この暗さのある部屋のほうでした。

ひとつだけ、床を上げた

一段上がった畳の間
ひと続きにすると決めた家で、ここだけ床を上げて畳を敷きました。 壁は立てていません。段差だけで «別の場所» になる。 腰を下ろせば視線が下がり、さっきまでいたリビングが少し遠くに感じます。 用途を決めていない場所を残せるかどうかで、家の余裕は決まると思っています。

住みはじめて分かったのは、広く感じるかどうかは面積ではなかったということです。 いちばん奥まで目が届くこと、行き止まりがないこと、床の素材が変わること。 効いていたのは、そういうことでした。

「マンションだからここが限界」と言われたら、 たいていそれは間取りの限界です。まだやれることは残っています。 それを確かめるために、この家を先につくりました。

あなたの家は、
本当にそこが限界でしょうか。

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